こんにちは、もりのひつじかいです。
『てんきごじてん』という
ユニークな辞典をご存じですか?
(写真:鈴木心/文:千葉雅子・関田理恵
/ピエ・ブックス/2009年初版)
副題は
風・雲・雨・雪の日本語とあります。
関連する天気のことば約1500と
季節の表情を楽しむ辞書写真集であると
表紙の隅に小さく書かれています。
この辞典は
今は亡き息子が遺してくれたもの。
ひつじかいはときどき
絵本の物語の展開に行き詰まると
この辞典を取り出しては
パラパラとめくりはじめます。
すると
今まで知らなかった天気のことばが
いくつもいくつも目に飛び込んできます。
そのたびに
日本語ってすごいな!
て思うのです。
たとえば―
青梅雨(あおつゆ)
秋小雨(あきこさめ)
秋雨(あきさめ)
・・・
あ行から始まる雨のことばは
全部で339!
これだけの数のことばを使って
「雨」を言い表そうとする言語は
世界中を見渡しても、そうそう
見つからないのではないでしょうか。
ただし
この辞典を読んだからといって
すぐに絵本づくりに役立つ
というわけではありません。
でも
その「てんきご」を知っているだけで
こころに描く「物語の場面」に
広がっていた「空」や
浮かんでいた「雲」
吹き渡っていた「風」とか
「雨」の気配などが
すんなりイメージできるのでした。
ということで
今日はこうした「てんきご」の中から
ひつじかいの印象に残ったことばを
いくつかご紹介しようと思います。
また、いまはまだ梅雨時ですので
梅雨を中心に雨の「てんきご」を
絵本のことば(子どもにわかることば)で
お伝えしてみたいと思います。
風と雲と空の「てんきご」から
【朝戸風】(あさとかぜ)
意味は、朝起きて
最初に戸を開けたときに吹き込む風
ということですが
朝の濃厚な気配と舞い込む風の強さとを
体で感じることができることばです。
【梅の下風】(うめのしたかぜ)
なんとも風雅な風です。
梅の香をそっと運んでくる風の意。
春の嵐が吹き荒れる前の
のどかな一日が思い起されます。
【萩風】(はぎかぜ)
萩の葉むらを揺らしながら渡っていく
秋の先触れともいえる風の意です。
とても地味ですが
季節の移ろいを感じさせてくれる
風流なことばです。
【神立雲】(かんだちぐも)
雷雲(かみなりぐも)の別名。
雷といわれると身構えてしまいますが
こんなことばでいわれてみると
確かに神がお立ちになられた姿かなと
妙に納得してしまいます。
これなら怖さも少しは和らぎそうです。
【雲の迷い】(くものまよい)
いくつもの雲が乱立すること。
心が乱れているときにこんな雲を見たら
「雲の迷いは心の迷い!」
みたいなことになってしまいそうです。
主人公の心の暗喩として使えそうです。
【雲の八重山】(くものやえやま)
説明するまでもありませんね。
重なり合う雲を八重山に喩えています。
空の奥行きが感じられる
重厚で立体的なことばです。
【円清】(えんせい)
大空。天空の意。
特に春の空のこと、とあります。
たしかに空は円く、また清らかです。
「大空」と言わず
「円清」と唱えてみますと
なんともいえず心が落ち着きます。
空の大きさや清々しさが感じられるような
すばらしいことばです。
【青葉空】(あおばぞら)
青葉が目にうつくしいころの
空の意。
青葉と空の輝きを
この一言で表現してしまうなんて・・・。
日本語の懐の深さを感じさせてくれます。
【星合の空】(ほしあいのそら)
陰暦7月7日の夜の空を
こういう言葉で呼ぶのだそうです。
1年に1回だけ星と星とが出会う
ロマンティックな空のことばです。
雨の「てんきご」を絵本のことばで
次に、雨にまつわる「てんきご」を
絵本のことばで言い表してみましょう。
まずは、冒頭で少し触れた――
【青梅雨】(あおつゆ)から。
つゆ といえば
くもって うっとおしい そら や
ぬれている みち や
じめじめっとした くうき とか
いつまでも かわかない あまがさ
などに こころが いってしまいがち。
でも そんなときは
きを みると いい!
あおばが
あめに うたれて
つややかに
ひかっている。
あおばが
つゆにねれて
ひときわ あおく
ひかっている。
あおばに つゆが
ひかっている。
あおつゆが
ひかっている。
【梅の雨】(うめのあめ)
うめの あめとは
いかにも やさしい。
うめに ふる あめ
うめに あめ ふる。
つゆを わすれて
あめの うめ
うめの あめ。
【朝夕立】(あさゆだち)
あさゆだち とは
あさから ふる つよい あめのこと。
あさから ふっても ゆうだちとは
これ いかに。
あさゆだち。
あさゆだち と いってやったら
あさからの ゆううつな あめも
なぜか たのしく かんじられた。
【私雨】(わたくしあめ)
かぎられた とちに
すこしだけ ふる あめ。
わたくしだけの かぎられた あめ。
わたくしの ためだけに
ふっては あがる
そんな てんの はからい。
わたくしを とおくから みつめる
やさしい めが ある。
【月の雨】(つきのあめ)
あめで なければ
こよいは ちゅうしゅう!
あめよ あめ
だめよ あめ
いじわるな あめ。
そんな あめを
つきの あめと よんで
こころを しずめる
あきの よる。
絵本には使えない?てんきご!
ひつじかいが見たところでは
「てんきごじてん」に掲載された
ことばで
絵本にそのまま使えそうなものは
ざっと5%というところでしょうか。
ためしに雪の「てんきご」168のうち
使えそうなものを拾い出してみましょう。
【朝の雪】(あさのゆき)
【大雪】(おおゆき)
【粉雪】(こなゆき)
【小雪】(こゆき)
【どか雪】(どかゆき)
【根雪】(ねゆき)
【初雪】(はつゆき)
【春の雪】(はるのゆき)
【べた雪】(べたゆき)
【雪煙】(ゆきけむり)
【綿雪】(わたゆき)
など、11語くらいですね。
率にして6%強というところです。
他のジャンルも
だいたいこんな感じでしょうか。
つまり絵本では「円清」はもちろんのこと
「梅の下風」も「朝夕立」だって
ほとんど使わないということです。
なにしろ相手は子どもですから
まずはお話しそのものを
理解してもらわなければいけません。
「星合の空が広がっています。」
などと書いてみたところで
作者の独りよがりで終わってしまう
そんな事態になりかねませんよね。
だからといって
こうした「てんきご」を知らなくてもいい
ということにはならないのだと思います。
「円清」ということばを
心の片隅に置きながら
空を描写したとするならば
きっとそのことばには
円く清らかな
まさに「円清」としか呼べないような
そんなニュアンスが
刻印されるのではないかと思うからです。
日本人にとって
季節というのはとても大切なんだな
ということが改めて分かります。
「てんきご」というのは
そんな季節の移ろいを知覚するための
「合言葉」なのかもしれません。
いろいろなことばを知れば知るほど
季節が愛おしくなってきます。
人生が愛おしくなってきます。
今朝
窓を開けたら
一陣の風が
吹き込んできませんでしたか?
それが「朝戸風」ですよ!
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