こんにちは、もりのひつじかいです。
庭の片隅に
妻が植えたサンショウの木があります。
今では人の胸ほどの高さに成長し
彼女の思惑どおり
例年アゲハチョウが卵を産みに訪れます。
今年も10頭以上の幼虫が誕生しました。
幼虫は当初は順調に成長をつづけますが
不可解なことに
例年、ある時期をさかいに
その数が激減してしまうのです。
「スズメバチに連れいかれてしまうの」
と妻は悔しそうに顔をしかめます。
そこで今年は
サンショウの木に目の細かい網をかけて
スズメバチの襲撃を防ぐことにしました。
ところが
それでも数が減ってしまったのです。
その理由は?
調べをすすめていくと
科学絵本などではあまり触れられていない
ある恐るべき事実に行き着いたのでした。
・・・・・・
ということで今回は
華麗なる蝶、アゲハチョウの
過酷過ぎる旅立ち(天敵)について
レポートしてみました。
天敵はスズメバチだけではなかった!
網をかけても数が減り続けることを
不思議に思った妻が
ある日じっくり観察をしているとー
アゲハチョウの幼虫が
カメムシ似の甲虫に捕獲され
体液を吸われていたのだそうです。
気がついたときには手遅れだったと
痛々しい顛末を報告してくれました。
そうか、
天敵はハチだけじゃないんだ!
このときはじめてひつじかいは
優雅に舞い踊るあのアゲハチョウも
「食物連鎖」という自然の営みと
無縁ではないという厳しい現実に
思い至ったのでした。
そこで
自然に抗う行為ではあると自覚しつつ
前述の網をかけることにしたのです。
しかしそれにもかかわらず
「全滅してしまった」のです。
幼虫がいないのであれば
木の生育のためにも
網を外してやらなければなりませんが
どうにも踏ん切りがつかず
何日もぐずぐずしていました。
数日たったある日
ふとサンショウの木に目をやると
網の上部にできた三角の隙間で
懸命に羽ばたく一頭のアゲハチョウを
目にしました。
羽が傷まないうちに
早く外に出してやらねば!
あせったひつじかいは
記録用の写真を撮ることも忘れ
木を覆っていた網を
手早く外しました。
難を逃れた幸運な蝶が無事に羽化し
旅立った瞬間でした。
あっ、さなぎを落としちゃった!
羽化したアゲハチョウを開放してやろうと
とにかく慌てていたひつじかいは
網を外している最中に
大変な失態を演じてしまいます。
サンショウの枝ではなく
網に着いて蛹化(ようか)していた
大切なさなぎを
あろうことか
地面に落としてしまったのです。
あわてて拾い上げて保護し
とりあえずはサンショウの葉をもいで
その上に置いてみたりもしましたが
どうにもこうにも座りが悪い。
羽化したアゲハチョウの抜け殻を
じっくり参照しながら
それと似たような角度になるよう
さなぎを慎重に動かしました。
しかし何とも不安定です。
そこで
ネットで調べてみることにしました。
あまり期待はしていませんでしたが
親切丁寧で的確なアドバイスが
動画仕立てでアップされていました。
世の中には妻と趣味を同じくする仲間が
こんなにも大勢いるのかと
半ば呆れ半ば驚きもしました。
科学絵本に勝るとも劣らない
博識ぶりです。
これら同好の仲間たちが
異口同音に唱えていることは
アゲハチョウを天敵から守るためには
室内で飼育するのが一番だ!
ということでした。
特に枝から落としてしまった
(落ちてしまった)さなぎについては
特別な対応をする必要があるとの指摘。
それがさ
なぎのための〈ポッド〉を用意する!
ということでありました。
見様見真似で作った〈ポッド〉はこちら↓
この〈ポッド〉の素材はカレンダーです。
それを小枝代りの「割り箸」に固定して
(通常さなぎは、自分で分泌した糸で
前後2箇所を枝に固定しています。)
自然な角度になるよう傾けます。
また、脱皮する際のとまり木(バー)が
必要だということでしたので
剪定した庭木の枝で代用しました。
こんなこと
科学絵本には出てないかもね・・。
これでよし、と。
あとはどうか無事に羽化しますように!
さなぎの体内に寄生するもの
〈ポッド〉が完成したちょうどそのとき
妻が3頭目のさなぎを発見しました。
さなぎは周辺の色に同調するのだそうで
サンショウの葉の色に紛れ
ひつじかいが見落としていたのでした。
このアゲハチョウも羽化してくれれば
3頭の蝶を守ったことになるぞ!
わくわくしながら
愛おしむようにさなぎを見つめました。
その翌朝のことです。
さなぎの様子を見に出たひつじかいは
異様な光景を目にして
その場でフリーズしてしまいました。
さなぎの体側に
2ミリ程度の微細な穴が空いていて
そこから何やら小さな羽虫が
もぞもぞと這い出してきたのです。
「何だこれは!」
思わず声に出して叫んでいました。
急いで妻を呼びに走り
現場を確認してもらうと-
「残念だけれど
この蛹はもう助からないわ!」
と妻の口から残酷な言葉がもれました。
ヤドリバエという寄生バエの一種が
さなぎの体内で成長し
羽化したところだというのです。
小さな穴からは
次々と小さなハエが飛び出してきます。
これは
まるでエイリアンじゃないか!
幼虫のころに卵を産み付けられた蝶は
大空を羽ばたくことなく
サンショウの木の枝で
不本意な一生を終えたのでした。
パソコンをたたくと
アゲハチョウに寄生する昆虫は
ヤドリバエだけではなくー
アゲハコバチ
アゲハタマコバチ
アゲハヒメバチ
アオムシコバチ
など寄生バチの仲間が多くいるとのこと。
妻が報告してくれた
幼虫の体液を吸っていた輩は
シマサシガメという甲虫だということも
分かりました。
アゲハチョウの天敵は
それだけではありません。
カマキリ
クモ
トカゲ
そうして
あのトンボまでが該当するのだとか。
この年になるまで知りませんでしたね
アゲハチョウの旅立ちが
こんなにも過酷なものだったとは・・。
うそ? おまえもか!
ヤドリバエの衝撃を引きずったまま
ひつじかいは
〈ポッド〉に保護したさなぎを
見守り続けました。
ところがさなぎの色が
次第に土色に変色し始めたのです。
念のため妻に見てもらうと
「このさなぎもダメかもしれない」
とショッキングな言葉が返ってきました。
「これもヤドリバエかな?」
「はっきりしたことは分からないけど
寄生虫にやられていることだけは確かね」
うそ!
こいつまで!
だけど、まだ生きているかも
しれないじゃないか・・・。
諦めきれないひつじかいは
それから何日も何日も
さなぎを見守り続けましたが
結局羽化することはありませんでした。
サンショウにとっては
木の葉を食い散らすアゲハチョウは
害虫です。
ですからその害虫を食べる昆虫は
益虫ということになります。
喰うものは喰われるもの!
自然界のルールは
何と残酷で
理路整然としていることでしょう。
アゲハチョウを見る目は
すっかり変わってしまいました。
もっと早く知っていれば
虫に対するひつじかいのスタンスは
大きく変わっていたかもしれません。
科学絵本は、幼虫の育て方とか
生態について説明するだけではなく
このような天敵についても
一歩踏み込んで
詳しく解説すべきではないでしょうか。
子どもは大人が考えている以上に
「大人びて」います。
食物連鎖など自然界の摂理についても
こうした機会に伝えておくことは
大人が想像している以上に
大切なことではないかと
深く考えさせられたひと夏の体験でした。