悩ましい〈漢字〉の使い方「童話」を書くときの目安ってある?

桜の花の前に漢字で「止まれ」の標識 童話・ファンタジーほか
漢字を使う?使わない?

こんにちは、もりのひつじかいです。

童話を書くとき

「ここは漢字で書きたいな」
「この漢字は少し難しいから
 ひらがなにしておいた方が無難かな」

なんて

あれこれ悩んだ経験
ありませんか?

それというのも
漢字の使用方法については
厳密な「決まり」のようなものが
ないからだと思います。

するとどうしても
〈漢字〉を使うときには
「こんな〈感じ〉でいいかな?」(笑)
ということになってしまうんですよね。

ただし、出版社によっては
一応の目安を設けているところが
あるようです。

でもそれだって
「慣例」という目安ですので
絶対的な「決まり」ではないはず!

ということで今回は
童話を書くときの〈漢字〉の使い方
について
考えてみたいと思います。

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一昔前の童話は結構難しい漢字を使っている!

雪の上に置かれた毛糸の手袋

まずは、この一文をお読みください。

寒い冬が北方から、狐の親子が棲んでいる森へもやってきました。
或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、
「あっ」と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。
「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。
母さん狐はびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照らしていたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかった子供の狐は、あまり強い反射を受けたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。

(新美南吉著『手袋を買いに』から抜粋)


難しい漢字にはルビがふってありますが
すべての漢字に対応しているわけではなく
また、なかには「恐れ」のような
中学1年生で習う漢字も入っていたりして
童話とはいえ
結構難しい書き方になっています。

漢字の使用に関し「一応の目安」を
設けている出版社にいわせれば
この『手袋を買いに』のような書き方は
「型破り」ということに
なってしまうのでしょうね。

漢字使用に関する「一応の目安」とは

では
先ほどから何度も出てきた
「一応の目安」とは
どのような慣例のことなのでしょうか?
参考までに書き留めておきましょう。

*未就学の子どもを対象とするならば・・

 →全文ひらがなで書きましょう。

*小学1、2年生を対象とするならば・・

 →小学校1年時に習う漢字を使って
  書くようにしましょう。

*小学3年生以上の児童を
 対象とするならば・・

 →その学年で習う漢字を織り交ぜて
  書くように心がけましょう。

ということだそうです。

つまり
漢字の使用については
その童話がターゲットと定める
読者(子ども)の年齢に応じ
オンデマンド的に書き分けなさい
ということですね。

一昔前に比べれば
かなり細分化しているということです。

いい意味でいえば「配慮」
ということになるのだとは思いますが
そこまで忖度(そんたく)してしまって
作品の字面(視覚的な見栄え)に
果たして何も影響は出ないのか
やや気になるところです。

ということで、次のセクションでは
試して納得!
先に引用した『手袋を買いに』を
小学1、2年生用と3年生用とに
書き分けてみることにしましょう。

小学校2年生用だとこうなる!

ウールのあたたかそうな手袋

『手ぶくろをかいに』

さむいふゆがほっぽうから、きつねのおや子がすんでいる森へもやってきました。
あるあさどうけつから子どものきつねが出ようとしましたが、
「あっ」とさけんでめをおさえながらかあさんきつねのところへころげてきました。
「かあちゃん、めになにかささった、ぬいてちょうだい早く早く」といいました。
かあさんきつねはびっくりして、あわてふためきながら、めをおさえている子どもの手をおそるおそるのけて見ましたが、なにもささってはいませんでした。さくやのうちに、まっ白なゆきがどっさりふったのです。そのゆきの上からおひさまがキラキラとてらしていたので、ゆきはまぶしいほどはんしゃしていたのです。ゆきをしらなかった子どものきつねは、あまりつよいはんしゃをうけたので、めになにかささったとおもったのでした。


いかがでしょうか?
小学1年生の時に習う漢字は
わずか80字ですので
肝心のタイトルまで一部ひらがなに
せざるを得ません。

また
「ほっぽう」とか「どうけつ」
「はんしゃ」などという音読みの熟語が
とても読みづらくなってしまいます。

ひつじかいの印象では
なんだか「ちぐはぐ」という感じですね。
文意が頭に入らなくなってしまいます。

では、対象年齢を一つ上げてみましょう。

小学校3年生用だとこう!

『手ぶくろを買いに』

寒い冬が北方から、きつねの親子がすんでいる森へもやってきました。
ある朝どうけつから子どものきつねが出ようとしましたが、
「あっ」とさけんでめをおさえながら母さんきつねのところへころげて来ました。
「母ちゃん、めに何かささった、ぬいてちょうだい早く早く」と言いました。
母さんきつねはびっくりして、あわてふためきながら、めをおさえている子どもの手をおそるおそるのけて見ましたが、何もささってはいませんでした。さく夜のうちに、真白な雪がどっさりふったのです。その雪の上からおひさまがキラキラとてらしていたので、雪はまぶしいほど反しゃしていたのです。雪を知らなかった子どものきつねは、あまり強い反しゃを受けたので、めに何かささったと思ったのでした。


こちらはいかがでしょうか?
一部歯がゆく感じる熟語もありますが
「眼」を「目」
「お陽さま」を「お日さま」と
置き換えることが可能ならば
ほとんど違和感なく読めるのではないでしょうか。

ふりがなで対応した方が自然かな?

拾伍と書かれた木札

ここまで
ひつじかいが敬愛する童話作家
新美南吉の『手袋を買いに』を例題に
童話を書くときの〈漢字〉の使い方
について検証をしてきました。

こんにちの
対象年齢(ターゲット)を明確にする
という流れのなかでは
「或朝洞穴から」みたいな使い方は
当然ご法度だとは思いますが
小学校3年生で習う程度の漢字であれば

「あえてひらがなにする必要はないかな」

「ふりがなで対応した方が自然かな」

という印象を受けました。
そういうあなたは
どのように感じられましたか?

ふつうの童話は(絵童話も含めて)
ページごとには絵が入りませんので
字面の印象というのは
結構重要なんじゃないかなと思います。

ひらがなを多用して
読みやすくしたつもりでも
かえって
「ごちゃごちゃ」して
しまうようならば
思い切って漢字を使った方が
すっきりするのではないでしょうか。

「ここは〈漢字〉を使うべき」
というあなたの、その〈感じ〉を
大切にしましょう。

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