こんにちは、もりのひつじかいです。
発刊から半世紀も経つというのに
今も子どもたちに根強い人気を誇る
へんないきもの〈へなそうる〉。
『もりのへなそうる』
わたなべ しげお・さく
やまわき ゆりこ・え
(福音館書店/1971年)
このファンタジーのいったいどこに
子どもたちをとりこにする仕掛けが
隠されているのでしょうか?
その秘密とは何ですか?
今日はそんな素朴な疑問に
子どもの目線で答えてみたいと思います。
大人の「ぎもん」は通用しない!
ファンタジー『もりのへなそうる』は
森にあそびに行った幼い2人の兄弟が
「いきなり」
巨大な縞模様の卵と遭遇するところから
お話しが動きはじめます。
なぜこんなふつーの森に縞模様の卵が?
しかもこ~んなに大きなやつが!
どんないきものが産んだのかな?
その子のママはどこにいるの?
絵本のストーリーを書いていると
ついついこんなところに
目がいってしまいます。
しかし子どもは
そんな大人の「ぎもん」はお構いなしに
ずんずんと物語へ入り込んでいきます。
へなそうるは自分が誰かを知らない。
へなそうるは「おにぎり」が大好き
へなそうるは自分のことを「ぼか、」
という。
へなそうるは夕方になるまで
いっしょにいっぱいあそんでくれる。
へなそうるはいつだってやさしい。
もうそれだけで
子どもたちはへなそうるに首ったけ!
へなそうるは
大人の「ぎもん」なんか届かないところで
「ぼか、おにぎりなんて
二つしかたべたことないな」
なんていうだけなのです。
どうやら
『もりのへなそうる』の人気の秘密は
このおおらかさとやさしさに
ありそうですね。
子どもたちはいつだって
「もっとあそぼ!」
って言ってもらえることを
何よりも願っているのです。
だって
子どもが子どもでいられる時間は
とっても短いから・・・
この『もりのへなそうる』という
ファンタジーは
いってみれば
あっというまに過ぎ去ってしまう
かげろうのような〈子どもの時間〉を
スローモーションで撮影した
奇跡のような物語なのです。
作者の〈わたなべしげお〉さんてどんなひと?
『もりのへなそうる』の魅力について
さらに掘り下げてみたいと思いますが
その前に
このファンタジーの作者である
〈わたなべしげお〉さんというひとが
どんなひとなのか
確認しておきたいと思います。
〈わたなべしげお〉さんは
渡辺茂男と書きます。
若いころは
ニューヨークの公立図書館で働いていた
という、ユニークな経歴の持ち主です。
帰国して大学の教授になり
絵本のストーリーや童話
翻訳ものなどを数多く手がけました。
ひつじかいの息子も大好きだった絵本
『とらっくとらっくとらっく』や
『しょうぼうじどうしゃじぷた』
の作者といえば
あ!と思い出すひとも
多いのではないでしょうか。
小さな消防自動車じぷたの大活躍は
何十年たっても忘れられません。
わたなべさんはこのほかにも
『エルマーのぼうけん』
(ルース・スタイルス・ガネット著/米)
という
あの有名すぎるファンタジーを
翻訳されていますよね。
そうか!
どうりで!
と気がついたひとは「びんかん」です。
へなそうるって
エルマーと冒険に出かけた竜を
なんとなく彷彿とさせるところが
あるように思います。
でも
エルマーの竜は飛べますが
へなそうるは
「たいへんだ!ぼかこわい!」といって
走って逃げるだけです・・が。(笑)
わたなべさんは
エルマーの竜を
わたなべさん流に解釈し直して
日本の森に
登場させたかったのだと思います。
だから
「いきなり」卵が落ちていたのも
それ以外のやり方では
エルマーの竜を連れてくる方法が
思いつかなかったのだと思うのです。
さいわいなことに
そのおかげで日本の子どもたちは
へなそうるに会うことができたんですね。
わたなべさんに感謝しなくては
いけませんよね。
ちなみに
エルマーシリーズは3冊出版されていて
いずれも
わたなべさんが翻訳をされています。
『エルマーのぼうけん』
(福音館書店/1963年)
『エルマーとりゅう』
(福音館書店/1964年)
『エルマーと16ぴきのりゅう』
(福音館書店/1965年)
と翻訳は続き
『もりのへなそうる』
が1971年の初版です。
『エルマーのぼうけん』から8年
「16ぴきのりゅう」から6年
これだけの時間をかけて
へなそうるは誕生したわけです。
『もりのへなそうる』のもう一つの魅力
『もりのへなそうる』のもう一つの魅力が
2人の兄弟のやりとりにあることは
あなたにも異論はないでしょう。
この兄弟はとても仲がよくて
弟はお兄ちゃんのまねばかりしています。
だけど弟はまだ小さいので
口がよくまわりません。
「たまご」のことを「たがも」と言ったり
「ぴすとる」のことを「しょっぴる」
と言ってしまったりします。
兄も何度か正そうとはしますが
それでも、なかなかうまくいきません。
そういうときでもこのお兄ちゃんは
弟の「言い間違い」を
全部受け止めてくれるんですね。
ここに
ほのぼのとした愛を感じるのは
ひつじかいだけでしょうか。
しかもその「言い間違い」を
あの〈へなそうる〉までもが
何の「ぎもん」も抱かず
何の訂正もせずに
ただただ受け入れてくれるのです。
このおおらかな受容と寛容と・・。
子どもたちのことは全部肯定してあげたい
という作者の強い思いを
感じることができます。
こんなところにも子どもたちが
『もりのへなそうる』を愛してやまない
秘密の鍵がありそうです。
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