こんにちは、もりのひつじかいです。
絵本を手にしたことがあるひとで
かこさとし(加古里子)という名前を
知らない人はいないでしょう。
そういうあなたもひつじかい同様
かこさんの絵本には
ずいぶんお世話になったのでは
ないでしょうか?
今日はそんなかこさとしさんの
数ある著作の中から
きわめて「かこさとし的」な科学絵本
「宇宙」を
レビューしてみたいと思います。
ノミから宇宙へと続く「比べっこ」の物語
かこさとし(加古里子) ぶん/え
『宇宙』(1978年発行/福音館書店)
この科学絵本を一言で要約するならば
スケール(ものさし)による比較のお話し
とでも言えるでしょうか。
ページを開くといきなり
ノミがジャンプするイラストが
目に飛び込んできます。
イヌノミや
ネコノミ
ネズミノミに
ヒトノミなどが
いったいどれくらいの距離を飛べるのか
という問いかけが
物語の始まりを告げる合図です。
このクイズ、ご存じだというひとは
いらっしゃいますか?
正解は-
イヌノミは0.4cm
ネズミノミが18cm
ネコノミで33cm
ヒトノミ(♂)にいたっては
なんと40cmなんだとか。
へー、そうなんだと
普通はここで終わってしまうわけですが
『宇宙』の骨頂はここからが本番。
もしもこのノミたちが
人間と同じくらいのサイズだったら
どれくらい飛べる計算になるのか
と問いをかけ
それをイラストで表現してみせるのです。
ちなみにヒトノミ(♂)は
からだの100倍も高く飛び
150倍も遠くへ飛ぶといいますから
これを人間に換算すると
高さ209.4mの新宿三井ビルを飛び越え
なんと335mも離れた地点に着地する
ということになるのだそうです。
このように1ページ目から
スケールを活用した「比べっこ」のお話しが
綿々と続いていきます。
そうして
虫が飛ぶ速さは秒速何メートル?
虫が這う速さは分速何メートル?
動物が走る速さは?
クジラや魚が泳ぐ速さは?
汽車や車が走る速さは?
飛行機が飛ぶ速さは?
などと問いかけを繰り返しながら
次第にスケールは
高さに関する比較に
フォーカスしていきます。
これらの木々の高さは?
これらの建物の高さは?
低山帯とはどのくらいの標高のこと?
亜高山帯はどうかしら?
層雲が発生する高さは?
積乱雲は?
絹層雲は?
1961年・アメリカ人ロスの気球は
どんな高さを飛んだの?
観測用無人気球の最高到達点は?
流星の高度は?
カーテン状オーロラはどこに現れるの?
・・・・・・
やがて
作者・かこさとしさんが用意した
メジャー(ものさし)は
「宇宙」を測り始めることになります。
「じゅうりょくのかべ」をのりこえるには?
科学絵本『宇宙』の本題である
宇宙への旅は
この問いかけからスタートします。
それを検証するために、まずは-
ピストルの弾を
まっすぐ前に向けて撃ったならば
どうなるか?
もっともっと速度の大きい
大砲だったらどうか?
地対地ミサイル(SSM)だったら?
大陸間弾道ミサイル(ICBM)だったら?
こうして どんどん うちだすたまの
はやさを ましてゆくと、
たまの おちるばしょは どんどん
さきへ さきへと のびてゆくことに
なります。
そして とうとう-
(かこさとし『宇宙』28ページから抜粋)
ある速度に達すると
打ち出した弾はどこにも落ちることなく
丸い地球をひとまわりすることになる
と説明は続きます。
このような速度で打ち上げられたのが
人工衛星だというんですね。
それじゃあその地球を周回する
人工衛星の軌道はどんなふうなのか
ということが次に語られ-
この地球のまわりには
光や電波や目には見えない波や流れが
どこからか押し寄せ
ぶつかり、渦巻き、漂っているのだと・・
ではそれらは
いったいどこからやってくるのか・・・?
さあ、ぼくといっしょに
探索してみよう!
と作者は子どもたちを誘うのです。
ノミから始まった物語は
次第にそのスケールを大きくしながら
ピストルや大砲やミサイルについても
目をそらすことなく堂々と語り
ついには宇宙空間へと
果敢に飛び出していくのです。
いかがでしょうか、この巧みな導線?
子どもたちの興味を引き寄せたまま
とうとう宇宙にまで
やってきてしまいました!
こんな長大な科学絵本
そもそも読み聞かせに耐えられるの?
とついつい心配になりますよね?
ご安心ください。
子どもたちは大人が考えている以上に
科学的です。
「これは難し過ぎる」というのは
大人の理屈です。
ひつじかいの子どもたちも
この科学絵本で
ノミと宇宙はつながっている
ということを
あっぱれなくらいに理解していました。
ただし問題がひとつだけあります。
それは・・・
本の性格上
イラストや図表なども読まなければならず
読み聞かせの時間が超長くなる!
ということです。
子どもたちの好奇心に
「もういい!」ということは
ありませんからね。
対処法としましては
前もって
「この絵本は3回に分けてお話しします」
などと根回しをしておくことでしょうか。
うちゅうのはてから おわかれします
おっといけない!
レビューはまだ終わっちゃいませんね!
もう わたしたちの うちゅうせんは
ちきゅうから
なん10まんキロメートルも
はなれた ところへ やってきました。
ここまでくると たかいと
いうことと とおいと いうことが
おなじになって しまいます。
(かこさとし『宇宙』34ページから抜粋)
こうして宇宙船は
月の表と裏側を観測し
火星を観測し、水星を観測し
太陽に近づき
太陽系を離れ
光が1年走り続けて届く「1光年」
と呼ばれるところまでやってきました。
ところがここまできても
おとなりの星(恒星)は見当たりません。
5光年の付近でようやく
ケンタウルス座αという星を見かけ
10光年まで距離を延ばして
白鳥座61
インド人座ε(イプシロン)
1千光年を超えた辺りで馬頭星雲IC434。
長径約5万光年の銀河系を離れ
7.5万光年の辺りまで広がる
銀河系ハローを抜け
アンドロメダ星雲M31は
なんと200万光年もの宇宙のかなた。
それでも宇宙船の旅に終わりはなく
おとめ座wは5000万年光年のその先。
10億年というスケールの「目」で
ながめてみると
たくさんの島宇宙や
光ではなく電波だけを出している
電波星雲や、高速で遠ざかる
準星(クエーサー)と呼ばれる天体を
見つけることができるのだとか。
そうしてついに宇宙船は
地球から150億光年のところまで
はるばるやってくるのです。
その先にある島宇宙は
光や電波の速さで遠ざかっているため
そこから出る光や電波は
地球に届くことはないのだそうです。
だからこの宇宙船の旅も
ここで終わりだと作者は伝えます。
そうして最後に
こんなふうに子どもたちに言うのです。
この ひろい うちゅうが あなたの
かつやくするところです。
では うちゅうのはてから
おわかれします。さようなら!
(かこさとし『宇宙』61ページから抜粋)
いかがでしょうか?
視界がずいぶん広くなったような気が
しませんか?
こんなに広い宇宙で
思う存分活躍してみたいなと
そんな気分になりませんか?
1ページ目のノミのジャンプは
こんなにもはるかな宇宙の彼方まで
飛び跳ねていくのです。
大人のあなたでも
まだ十分間にあうはずです。
思う存分活躍してみましょう。
(すでに活躍されている方は
ごめんなさい!)
宇宙はこんなにも広いのですから
あなたが活躍できる場所は
きっとどこかにみつかるはずです。
あっ、いけない!
予定より大部ページが超過しています。
ひつじかいの「絵本をレビュー」
かこさとしの『宇宙』編は
これにておひらき。
では ブログのはてから
おわかれします。さようなら!(笑)
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