こんにちは、もりのひつじかいです。
幼稚園や保育園で人気の絵本
『えがないえほん』(早川書房)。
今日は
この『えがないえほん』を参照しながら
「絵本の定義」について
考えてみたいと思います。
あの・・
『絵のない絵本』(アンデルセン)
という有名な童話がありますが
今回は『えがないえほん』の方ですので
お間違えなく!
この機会に
「絵本」とは何かということについて
いっしょに掘り下げてみましょう。
『えがないえほん』って何モノ?
『えがないえほん』というのは
文字通り
「えがない」(絵)本のことです。(笑)
本当に絵がありませんので
正しくは
「絵本」とは呼べないかもしれません。
じつはこの(絵)本
これを読むに当たってのルールとか
お話しへ誘い込むための言葉がけ
聞いてくれている人への確認の問い
などの地の文に加え
*オノマトペ
*感嘆詞
*叫び声(おたけび)
*うなり声(動物の?)
*スラッグ
*ニックネーム
*おならみたいな奇妙な擬音語
*ほとんど意味をなさない擬態語
などを大胆にスクランブルして
できあがっているんですよ。
つまりこの本は
「音を伝える!」こと
を前提に書かれた(絵)本なのです。
「音を伝え」始めると・・
ここに書かれている文字たちが
やがて「むっくり」と起き上がり
あっという間に子どもたちを
笑いの渦の中へと連れ去ってしまう
という
なんとも不思議な(絵)本なのです。
これって演劇に近いかも!
声に出して読むことで
(いいえ、違います!)
声に出して発音することで
「意味をなさない」
と思われていた文字たちに
にわかに命が吹き込まれ
何かが、そこに誕生するんですね。
それって、もしかしたら
「劇的空間」なのではないのかなと
ひつじかいは考えています。
「一幕のお芝居のような空間が」
にわかに出現するんです。
作者のB・J・ノヴァクというひとの
経歴を調べてみると
アメリカのコメディアンとあります。
しかも
映画『スパイダーマン』にも出演している
人気俳優さんなんだとか。
コメディアンということであれば
「劇的空間」を作り出すなんてことには
一日の長があるわけです。
なるほど、それなら合点がいきますね。
彼は
顔で
目で
声のトーンや強弱で
間合いで
『えがないえほん』を伝えるわけです。
しかし
いくら子どもとはいえ
彼らの前で
この本の「音」を伝えるためには
少なからぬ勇気が必要になるはずです。
なぜなら
この本では、伝え手は
「徹底して演じなければならない」
からです。
ここを中途半端にしてしまうと
「うける」どころか
「スベって」しまうでしょうね。
じゃあ、いったい何を演じるのか
ということですが
それは
こんな奇妙な言葉を聞いて
ぼくも
君とおなじくらい驚いているよ。
という「へんなおじさん」を
演じるということですね。
『えがないえほん』は絵本なの?
この問いこそ、まさに
本日の主題と深く関わってきますから
ここを避けて通ることは許されません!
よね?
ちなみに、この(絵)本は
第11回MOE絵本屋さん大賞2018
という絵本の専門誌主催のコンテストで
堂々の4位にランクインしています。
ということは
業界では「絵本」というジャンルに
カテゴライズされたということですね。
でも、ちょっと待ってください。
この(絵)本を本当に「絵本」と
呼んでもいいものでしょうか?
絵本の定義に
本当に則しているんでしょうか?
え?
「絵本の定義」を知らないって?
それでは
手元にある広辞苑(第七版)を
まずは開いてみましょう。
①挿絵のある書籍。絵の本。絵草紙。
②絵の手本。
③絵を主体とした児童用読み物。
と、いっています。
念のために
ブリタニカ国際大百科事典小項目事典は
いくつかの画面を軸として
ストーリーを展開する本。
20世紀以降の欧米の絵本には
文章を主とした「お話し絵本」から
画面を中心とする絵本への移行が
みられる。
と書いています。
そして最後に
『アメリカン・ピクチュア・ ブックス』
バーバ ラ・ベーダーさんの言葉も
ご紹介しておきましょう。
「ピクチュアブック(絵本)は
テキストとイラス トレーションが
トータルにデザインされたものであり
(中略)
なによりも第一に、子どもにとって
一つの経験となるもので ある。
芸術の形態としては
絵本は、絵とことばの相互依存、
向かい合う二つのページの同時提示、
ページめくりのドラマを要としている。
そして、絵本は、それ自体として、
無限の可能 性をもつ。
『絵本・物語るイラストレーション』
(吉田新一著/日本エディタースクール
出版部1999 年)
これらの言葉をを総合すると
絵本の定義については
次のようにまとめることが
できるのではないでしょうか。
絵本とは、絵(画面)を主体として
ストーリー展開する本のことで
絵と言葉の相互依存により成立する
ページめくりのドラマのことである
と。
さらにこれを要約すると
絵本とは
絵と言葉とそれをめくる子どもとの
相互依存により成立するドラマのこと
ということになりましょうか。
絵と言葉とページをめくる子どもの
三者が揃ってはじめて「絵本」といえる
ということですね。
この定義に照らし合わせれば
『えがないえほん』は
一種のドラマ(劇的空間)を
出現させはしますが、それは
三者の相互依存により醸成される
「絵本」というドラマではない
ということになるでしょうか。
試しに『えがないえほん』を
ひとりきりで読んみましたが
あの「劇的空間」が
立ち現れてくることはないんですよね。
どうやらこの(絵)本は
幼い観客を必要とするみたいなのです。
で
ひつじかいの結論はこうです。
『えがないえほん』は
出版物としては「絵本というジャンル」に
カテゴライズされている書籍だが
「絵本」ではない。
無限の可能性をもつ絵本のために
さて、ここまで
『えがないえほん』は絵本なのか?
という問いかけを軸に
「絵本」の定義について
深~く考えてきました。
「絵本の定義」を確認する
よい機会になったかもしれません。
絵と
言葉と
ページめくりと
絵本はこの3つの要素で成り立っている
ということですね。
あらためて絵本って
すばらしいなって思います。
「それ自体として無限の可能性をもつ」
絵本のために
これからも絵本の「言葉」
わくわくするようなストーリーを
紡いでいかなければ・・
そういうあなたも
ですね・・
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