「心を鬼にして~」の鬼って絵本に出てくる鬼とどこが違うの?

節分 絵本なんでもファイル

こんにちは、もりのひつじかいです。

節分が近づいてまいりました。

そこで今回は
節分の「主役」ともいえる
鬼について
絵本に登場する「鬼」も含めて
いろいろな角度から
みつめてみたいと思います。

そういえば
最近ひつじかいは
こういうフレーズで
「鬼」という言葉を使われました。

 いいかい、ひつじかい

(注:実際はそんなふうに呼ばれては
   いませんが・・・。)

 心を鬼にして言わなければいけないよ。

ってね。

以前、なにかのドラマの中で
こんなシーンを観たことがありましたが
現実の会話の中で言われてみると
妙に心に引っかかったんですね。

「心を鬼にしろ」ったって
どんなふうにすればいいのかなって・・。

絵本に出てくる鬼と
「心を鬼にする」の鬼
いったい何が違うんでしょうか?

そもそも日本にはどんな「鬼」がいるんだろう?

「鬼」について
ひつじかいは
それほど造詣が深い訳ではありませんが
「心を鬼にして」の鬼を考える前に
そもそも日本にはどんな鬼がいるのか
という点を
確認しておきたいと思います。

鬼瓦

ひつじかいはかつて、菩提寺で
「鬼松」と呼ばれていた松を
見た記憶があります。

その昔
(といっても平安時代のお話しですが・・)
征夷大将軍
坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が
蝦夷征伐(えぞせいばつ)に向かう途上
この地に立ち寄り
鬼神退治をしたという伝説が
その寺に伝えられているのです。

この伝説の後日譚として
退治した鬼神を適地に埋めたところ
そこから一本の松が生えた。
「鬼松じゃ」ということで
近隣のものが
それをねんごろに守り育ててきたという

これもある種の言い伝えですね。

似たような伝説は
各地に残されているようですが
鬼神という「鬼」の
典型的な伝承のひとつとだと思います。

残念ながら菩提寺の松は
先代のときに枯死してしまいました。

ほかには・・

今は合併により長野市となりましたが
鬼無里村(きなさむら)という地域に
「紅葉(こうよう)伝説」
という逸話が伝えられています。

「鬼女」に化身した女性(紅葉)が
最後には討たれてしまうという
なんとも哀れな物語です。
以後その村は「鬼のいない里」
鬼無里(きなさ)と呼ばれるようになった
というオチまでついています。

あとは・・

あなたもよく知っている「鬼ヶ島」伝説や
今や世界遺産ともなった
「鬼ヶ城」(熊野市)には
「鬼」と怖れられた海賊
多娥丸(たがまる)を
彼の地で征伐したという伝説があります。

ここにもまた先ほどの
坂上田村麻呂が登場します。

そうしますと
坂上に征伐された鬼(鬼神)は
日本の各地にいるということになります。
彼らにとっては
まさに「鬼!」のような将軍ですね。

それから・・

「鬼」と名はついてはいないものの
大酒飲みで知られる鬼族の頭領に
大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)
というのがいましたね。

最後はこれも首をはねられてしまいます。
陰陽師、安倍晴明(あべのせいめい)が
活躍していた時代の話しです。

 そういえば節分祭のときに

 神社の境内をうろうろしている

 赤鬼と青鬼がいますよね。

 あれはどういう「鬼」なんでしょうか?

あれは
追儺式(ついなしき)
俗にいう「鬼やらい」と呼ばれる神事で
追い払われる
「疫神」(えきじん)、疫鬼(えきき)です。

つまり、あなたに
「鬼は~外!」って豆をぶつけられる
「やく病神」に
姿形を与えたものですね。

悪神(あくじん)は悪神ですが
神様であることに間違いはありません。

 ちょとまって!
 秋田のなまはげは「鬼」でしょう?

いいえ違います。
あちらも
れっきとした神さまでいらっしゃいます。

ただしあちらは
怠惰や不和を諌め災いを祓ってくださる
ありがたい神様なんです。

でも、立派な角が、二本も!

あれは・・

本来は来訪神であったものが
時代の変遷とともに「鬼文化」と接触し
混交した結果として
角が生えたと考えられているそうです。

これはあくまでも推測の域を出ませんが
もともとは
『千と千尋の神隠し』に登場する神様
(たとえば大根の神様)みたいな
素朴なお姿だったのではないでしょうか。

まあ広い意味では、なまはげも
「鬼」の亜種と
呼べないこともありませんが・・。

鬼の研究者はどんなふうに考えているの?

名著『鬼の研究』で知られる
歌人で文芸評論家の馬場あき子さんは
日本の「鬼」を
次の5種類に分類しています。

1 民俗学上の鬼・・・祖霊や地霊など

2 山岳宗教系の鬼・・・山伏系(天狗等)

3 仏教系の鬼・・・邪鬼・夜叉・羅刹

4 人鬼系の鬼・・・盗賊や凶悪な無用者

5 変身譚系の鬼・・・怨恨や憤怒により
  鬼に変身したもの

ひつじかいが掲げた例を
この区分に置き換えますとー

1番は「なまはげ」ということになります。

2番に大江山の「酒呑童子」を充てても
 いいのかもしれません。

3番は節分祭の「赤鬼」「青鬼」ですね。

4番は鬼ヶ城の「多娥丸」。

5番は鬼無里の「紅葉」が該当します。

それでは「鬼松」の鬼神は
どこにカテゴライズされるのか?
ということですが
ひつじかいの考えでは
どこにも該当しないんだと思います。

神ということですから
普通は1番か3番ということですが
残された伝説からは
その鬼神の正邪が判別できないのです。

また
蝦夷征伐の途上というところが曲者です。
坂上は帝(みかど)の意向により
蝦夷の平定に向かっていたわけですから
鬼神と崇め奉られた「鬼」も
じつは帝の政敵だったということが
おおいに考えられるでしょうからね。

絵本に登場する「鬼」を見てみると・・

まずは「鬼」を扱った絵本を
いくつかピックアップしてみます。

さすがに
「パンツをはいた~」(笑)みたいな
キャラクターものの鬼は外しておきます。

おにだぞ~

おにだよ~


『ないたあかおに』
(浜田廣介・文/池田龍雄・絵
 ・偕成社/1965)

『だいくとおにろく』
(松居直・文/赤羽末吉・絵
 /福音館書店/1967)

『おにのぼうし』
(あまんきみこ・文/岩崎ちひろ・絵
 ポプラ社/1969)

『鬼のうで』
(赤羽末吉・作/偕成社/1976)

『おなかのなかにおにがいる』
(小沢孝子・文/西村達馬・絵
 /ひさかたチャイルド/1982)

『まゆとおに』
(富安陽子・文/降矢なな・絵
 /福音館書店/2004)

『ふくはうちおにもうち』
(内田麟太郎・文/山本孝・絵
 /岩崎書店/2004)

『鬼の首引き』
(岩城範枝・文/井上洋介・絵
 福音館書店/2006)

小学生のボクは、鬼のような
お母さんにナスビを売らされました。』
(原田剛・文/筒井則行・絵
 /ワイヤーオレンジ/2014)

※☆印がついているのは
 ひつじかいオススメの絵本です。

こうやって並べてみますと
ほとんどが「山岳宗教系」の鬼ですね。
この結果はちょっと意外です。
『ふくはうちおにもうち』が唯一邪鬼で
『小学生のボクは、鬼のような~』は
鬼のように怖い人間のお母さんです。
(当たり前でしょう!)

鬼のお面

絵本の読者には
祖神とかの神様系は
まだわかりにくいのだと思います。

また、人鬼については
そもそも絵本のキャラクターに
なじまないということなんでしょう。

ただし、悪意・悪徳のメタファーとして
『おなかのなかにおにがいる』
みたいな感じで使うのは
絵本でもぎりぎりセーフなんでしょうね。

本当に心を鬼にしなければいけないの?

ということで
再び
冒頭の問いかけに戻りたいと思います。

「心を鬼にする」というときの「鬼」とは
いったいどんな「鬼」なのか?
というあれです。

どうやら
ここまで見てきた「鬼」のなかには
この言葉にしっくるくるような「鬼」は
見当たりませんでした。

ひょっとしたら
「鬼のようなお母さん」と言うときの
「鬼」といっしょなのかもしれません。

このお母さんも
「心を鬼にして」
息子に
ナスビを売らせたのだと思うんです。

ではその「鬼」とは・・・?

道に迷ったときには
「広辞苑」の
お世話になることにしましょう。

「広辞苑」で「鬼」と引くと
9つの意味が出てきます。
その中のひとつに
「鬼のような人」とあり

・非常に勇猛な人
・無慈悲な人
・あることに精魂を傾ける人
・鬼ごっこなどで、人をつかまえる役

と出ています。

「心を鬼にして」というのは
どうやらそのうちの二番目
「無慈悲な」という意に
該当しそうですね。

そうしますとー

 鬼のように無慈悲な心で

 言わなければいけないよ


こういう感じになりますね。

でも「鬼のように無慈悲な心で」
なんて言われましても
鬼にだって
「泣いた赤鬼」みたいに
いい奴だっているわけですし
「大根の神様」みたいな
ほのぼのとした祖神だって
きっといらっしゃるに違いありません。

そこでひつじかいは
こう考えることにしました。

 鬼のように慈悲深い心で

 言わなければいけないよ

てね。

そう考えたら
気持ちがとっても楽になりました。

あなたも
ひとに意見をするときには
「心を鬼にして」(笑)
話してあげてくださいね。

 

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