こんにちは、もりのひつじかいです。
今日は
宮崎駿監督のアニメ絵本
『となりのトトロ』を題材に
〈アニメ絵本〉の魅力の秘密
〈絵本〉と〈アニメ絵本〉の境界について
〈絵本〉が〈アニメ絵本〉から学ぶべき点
などについて
探っていきたいと思います。
子どもに〈絵本〉を読み聞かせようと
奮闘独力したのに
〈アニメ絵本〉に
すっかり母屋をとられちゃった!(笑)
というあなた。どうぞ最後まで
ページを閉じないでくださいね。
子どもたちは〈アニメ絵本〉が大好き!
あらためて説明するまでもありませんが
〈アニメ絵本〉とは
映画などで上映されたアニメ作品を
「絵本風に仕立て直した絵本」
のことです。
古くは
ディズニー映画のキャラクターものなど
幅を利かせていた時代がありました。
しかし昨今では
日本のアニメーションの方が
断然おもしろいというので
この手の絵本は
和製ものが市場を席巻しています。
なかでもよく目にするのは
宮崎駿監督が手掛けた映像作品関連の
〈アニメ絵本〉でしょうか。
ちなみに我が家は
『となりのトトロ』(徳間アニメ絵本)に
ずいぶんお世話になったものです。
テレビ放映後に
ビデオ(当時はVHS)を買わされ
それを何十回も再生し
そのうえで、やっぱり本も欲しいといい
とうとう手に入れた絵本のトトロ。
いつしかその絵本もぼろぼろになり・・
それでも子どもたちはそれを手放さず
しまいには本文を
丸暗記してしまったほどです。
ふつうの絵本も
並行して読み聞かせてはいましたが
食いつき方が明らかに違っていました。
この違いはいったいどこからくるのか?
何が子どもたちを
あんなにも夢中にさせるのか?
そんなクエスッションに答えるだけでも
絵本づくりを志すものとしては
大いに参考になるのではないでしょうか。
これも〈アニメ絵本〉なの?
〈アニメ絵本〉と一口に言っても
なかには
こういうものだってあるんですよ。
『となりのトトロ』
中川李枝子著/宮崎駿イラスト
徳間書店/1988.2.1初版
本文を担当しているのは
絵本シリーズ『ぐりとぐら』で知られる
中川李枝子さんです。
文といっても
ほぼポエムに近いようなもの。
そこに宮崎駿監督が
原画ベースの素朴なイラストを添えた
きわめてシンプルな「トトロ」です。
このトトロを〈アニメ絵本〉と呼ぶのは
なんだか抵抗がありますよね。
たしかに主人公はアニメ映画の主役?
ではありますが
この本のしっとり落ち着いた趣は
〈絵本〉にカテゴライズすべき図書
ではないかと
ひつじかいは感じています。
では
〈絵本〉と〈アニメ絵本〉を隔てるもの
つまり(境界)って何なんでしょうか?
この問に答える前に
絵本の「三要素」について
少しおさらいをしておきたいと思います。
はじめに、絵本の専門家
『アメリカン・ピクチュア・ ブックス』
バーバラ・ベーダーさんの定義を
思い出してみましょう。
詳しくはこちらの記事に書いています。
「絵本」の定義って?『えがないえほん』にヒントを探して
絵本は、絵とことばの相互依存、
向かい合う二つのページの同時提示、
ページめくりのドラマを要としている。
『絵本・物語るイラストレーション』
(吉田新一著/日本エディタースクール出版部1999 年)から抜粋
このコメントに多少の言葉を補えば
こんな感じになるでしょうか。
絵本とは-
①絵と言葉相互の「もちつもたれつ」的な
バランスの上に成り立つ芸術であり
②向かい合うページ(つまり見開き)を
一遍に見せる迫力ある展開を骨頂とし
③ページをめくるという行為
そのものにも、なんらかのドラマ性
(物語性)を感じさせるてくれる
著作物のこと。
①と②については大抵の絵本作家ならば
百も承知していることですよね。
でも③についてはどうでしょうか?
ストーリーを工夫するのは当然であり
そのうえで
絵本をめくるという「行為そのもの」にも
ドラマ性がなければならないと
バーバラさんは言っているんです。
つまり絵本とは
絵本のページを「めくる」という
そのときめきのなかにも
ドラマが仕込まれているという
そういう芸術だということですね。
〈アニメ絵本〉の人気の秘密は
どうやらこの辺にありそうです。
といいますのは
ページをめくるあの瞬間の
ハラハラ、ドキドキ、ワクワクな展開は
アニメが一番得意とするところですから。
しかも、たいていの〈アニメ絵本〉は
すでに公開された映像の後追いです。
子どもたちの記憶のなかには
「あのときのあのシーン」が
鮮明に焼き付けられているはず。
そうであるなら誰だって
「早くページをめくりたい!」
って思っても、とうぜんですよね。
普通の絵本がこれに対抗するためには
紙芝居仕立てにして普及促進を図る等の
アナログ的な活動のほかに
動画サイトを有効活用していくなど
デジタルな取り組みが必要になるかも
しれませんね。
それで〈絵本〉と〈アニメ絵本〉の境界は?
この見出しを
先に引用した絵本に置き換えるならば
『となりのトトロ』(徳間書店)と
『となりのトトロ』(徳間アニメ絵本)の
境界ということになるでしょうか。
似て非なる2冊のトトロ!
いったいどこに線を引けばいいと
いうのでしょうか?
どちらの絵本も―
・アニメの主役が主人公である。
・原画とセル画の違いはあっても
キャラクターは同一である。
・宮崎駿監督が構築した
懐かしい物語の世界観を共有している。
など
一見しただけでは境界は見えてきません。
でもただ一つだけ
異なっている点があるんです。
それが―
物語(お話し)の一回性
ということです。
つまり
『となりのトトロ』(徳間アニメ絵本)の
物語(ストーリー)は
アニメ映画の物語を抽出したもの
であるのに対し
『となりのトトロ』(徳間書店)のそれは
中川さんが書き下ろしたポエムという
一回ぽっきりのお話しに
なっているということです。
アニメ映画から抽出した物語は
抜き出すシーンを入れ替えることで
バリエーションを
無数に展開することができます。
それこそセルは無数にありますので
編集は自由自在です。
〈絵本〉と〈アニメ絵本〉の境界は
どうやらこの辺りに
引くことができそうですね。
つまり
無数のセルと
一回ぽっきりのお話し
という辺りに・・。
繰り返しになってしまうかもしれませんが
宮崎駿監督の〈アニメ絵本〉の中には
〈アニメ絵本〉にカテゴライズできない
〈アニメ絵本〉もあるということを
強調しておきたいと思います。
ストロングポイントは大いに参照しよう
〈絵本〉と〈アニメ絵本〉
どちらが上か下かというランク付けには
あまり意味がないかなと思っています。
〈アニメ絵本〉には
子どもを夢中にさせてしまうという
ストロングポイントがありますので
そういうアドバンテージに関しては
大いに参照すべきものと考えています。
・キャラクターの圧倒的な魅力!
・波乱万丈のストーリーテリング!
・大胆不敵な書き割り!(カット)
などなど
仮に素のままでは移植できないとしても
圧縮したり引き伸ばしたり希釈したり
加工を施したりすれば
そのエッセンスを応用することは
可能かもしれません。
たとえどのような手法を使っても
子どもたちが食いつく!ような絵本を
創っていきたいと
ひつじかいは考えています。
あ、そうそう、忘れるところでした。
絵本『となりのトトロ』(徳間書店)を
レビューしました。
興味がおありの人は
次の記事で確認してください。
→ 幼児向けのトトロ絵本・ポエム版を〈もりのひつじかい〉がレビュー
ちなみに『となりのトトロ』(徳間書店)
作者の中川李枝子さんは
映画『となりのトトロ』の主題歌
『さんぽ』を作詞をしたひとですよ。
知ってました?
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