こんにちは、もりのひつじかいです。
今日は
ここまで5回にわたりお伝えしてきた
ぼくのオリジナル詩集
『君のいない朝』から
引き続きご紹介をしていきます。
よろしかったら
さいごまで
おつきあいいただければ
さいわいです。
前回までの記事は
次のリンクからご覧いただけます。
息子の七七日〈なななぬか〉を迎えて
今回お伝えする詩は
息子の七七日(四十九日)前後に
したためた5編です。
このころぼくは
はじめて息子の夢を見ました。
夢の中の息子と
何やら言葉を交わしたりもします。
それで、ようやく
息子の身辺を片付けてもいいような
そんな気持ちになり
彼のノートの片隅に
一遍の走り書きを見つけたのでした。
また
彼が亡くなる前日に
督促状をもらっていた
市民税や国民年金の掛け金を
完納していたことも分かりました。
そんな折り
脱衣所のタオル掛けに
息子愛用のバスタオルが
掛けたままになっていることに目が留まり
これは
「彼の肌の水滴を知っているはず」と
物思いに沈んだりもしました。
こんなふうに
日々刻々の心の動きを
無心に書き留めることで
息子の喪失という究極の出来事に
時にはバランスを崩しながらも
どうにか平衡を保ち続けることが
できたのだと思います。
顧みればこれらの詩は
ある種の傘
あるいは〈シェルタ-〉の役目を
果たしてくれていたようです。
七七日の朝が静かに明けました。
いよいよ息子が
あの世へ旅立つ日がやってきました。
しかし
あいにくの空模様。
心は〈仮定形〉の細道を
執拗に行ったり来たりしながら
最後まで揺れ続けます。
妻とふたり
墓前に菊花をお供えし
それでようやく
ひとつの区切りをつけたのでした。
オリジナル詩集『君のいない朝』から
イクスピアリエンス
24歳という若さで旅立った君に
夢のなかで父は問うた
君はなにをなすためにやってきたのかと
夢のなかの君はてらいもなく
もう一度愛を確かめたかったのだと
こたえた
モウイチド
アイヲ
タシカメタカッタノダ
と
そうか
とぼくはこたえた
君はそんな意図をもってやってきたのか
で君がいう愛ってやつは
ここで見つかったのかい
ぼくは重ねて問うたが
夢のなかの君はそれ以上は語らない
イクスピアリエンスという言葉が
すばやくぼくの胸をかけぬけた
経験
愛を確かめるという経験
君にとって
究極の経験となったかもしれない
地上(ここ)での愛
イクスピアリエンス
君ははたして
その願いを叶えることができたのか

祈ろう
祈りつづけよう
ぼくらの愛が
君のなかで結実するように
24歳の君が追い求めた
愛という経験
イクスピアリエンス
君の願い
ひとつぶの種
夢のつづきを
ノートの片隅に君の走り書きを見つけた
遺書もメッセージも残さなかった君の
貴重な文字の連なり
ピラミッドをつくる夢を見た
走り書きにはそうあった
遠い昔にピラミッドを構築した夢なのか
新たにピラミッドを建設する夢なのか
委細はわからない

わかっていることといえば
ほとんど手がかりを残さなかった君が
わざわざ
夢の話しをしたためたという事実
父は思うのだ
その夢には
君の心に響く何かがあったにちがいない
君の想像力をかきたてる何かが
その夢にはあったのだと
ピラミッドをつくる夢を見た
そう書き残して君は旅立った
夢のつづきを
誰にも語ろうとはせずに
突拍子もないこと
息子よ
おれはこのところ元気にやっているよ
母さんはおまえが
そっちでなにをしているか
まいにち心配ばかりしているがね
それでも
涙がこぼれ落ちそうになったときには
なにか突拍子もないことを
かんがえればよいのだってことも
おれはちゃっかり学んだりしたんだよ
たとえばそうだな
思いもかけないところから
おまえが母さんに宛てて書いた
クリスマスカードが出てきて
坂をころがり落ちるように
おまえのもとへと傾斜しはじめたとき-
クラムボンはわらったよ。
クラムボンはかぷかぷわらったよ。
なんて
『やまなし』の一節を唱えればよいのだ
そうしてクラムボンのことについて
想像しはじめるのだ
そうすればさ
そうすればね
あっといまにおれは
小さな谷川の青じろい水底にいて
二匹の蟹の子らが吐き出す
まるい泡のつぶつぶと
かぷかぷ戯れることができるって算段だ
お魚はどこへいってしまったのか
なんてことはかんがえてはいけない
お魚のことをかんがえてしまったら
めぐりめぐっておまえのことを
かんがえてしまうかもしれないからね
息子よ
おれもずいぶん変わったろう
まえよりも
いくらかつよくなったろう
おまえが亡くなる前日に
督促をもらっていた国民年金保険料を
納にいったなんて事実を知ったからって
おれはいささかも動揺
し な い よ
Marie Claire
誰だい
タオルをしまっておこうなんて
言い出したやつ
使い古しだよ 糸もほつれて
青だったはず かつては 色あせて
シミもあったりして
紙魚(しみ)ではなくて
汚点(しみ)だからね
美しくないよ このタオル バスタオル
女性のなまえなんかつけて
気取っている いいや
いいのだ これ あの子のタオル
バス タオル
ずいぶん肩入れしていたな このタオル
かれこれ 9年も使ったはず
太陽にあてたし 風にもあてた
にわか雨にもあたった
お気に入りだった 汗 汗だよ!
いつも最後はこのタオル
あの子の肌の水滴 知っている
糸もほつれて
藍色 いいや いまは青
いいや それも薄れて
名前もない色 いまは
宙に浮いた色 空 月 銀河 流星
ねえこれ
しまっておこうと思うのだ
だって流星だよ これ 奇跡
軌跡さ
これ あの子の肌の水滴 知っている
夏 冬 光 そうさ 光さ

シャワーの音も 知っている
降水確率
しずかな朝がやってきた
きょうが君の七七日(なななぬか)
ということでもなければ
わすれてしまいそうなくらい
ありふれた朝だ
降水確率70%
いつ降りだしてもおかしくはない空もよう
墓参のころには雨になるにちがいない
誰が名づけたものか
降水確率とは言い得て妙だ
天のめぐみもいまや確率で表現できる
というわけだ
降るか降らぬか
降らぬか降るか
ぼくらの命とておなじことか
生存率ということばが すでにあった
死ぬか生きるか
生きるか死ぬか

かけちがえてしまったシャツのボタンを
もういちどかけなおすことができたなら
君の生存率も
飛躍的に高まったのではないかと
ぼくらのエゴイズムは
仮定形の隘路に迷いこむ
降水確率70%
いつ降りだしてもおかしくはない空もよう
のこされたちちははのつとめとして
君に手向ける菊花をそろえた
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