「本当の哀しみは少し遅れてやって来る」詩集『君のいない朝』から

こんにちは、もりのひつじかいです。

 

ここまで
10回にわたりお伝えしてきました
オリジナル詩集『君のいない朝』。

 

ここまでのバックナンバーは
次のリンクからご覧いただけます。

 

『君のいない朝』(その1)

『君のいない朝』(その2)

『君のいない朝』(その3)

『君のいない朝』(その4)

『君のいない朝』(その5)

『君のいない朝』(その6)

『君のいない朝』(その7)

『君のいない朝』(その8)

『君のいない朝』(その9)

『君のいない朝』(その10)

 

いよいよ暦は8月

3月は息子が亡くなった月。
そして8月は・・・

 

一年前
薬物自殺を図った息子が
ドクターヘリで病院へと搬送された月。

 

医師からは「絶望的」と言われながらも
奇跡の生還を遂げた息子。

 

ぼくらの懸命の措置に対して

「感謝はしないが文句も言わない」

と言い放った息子。

 

それから半年・・・

回復の兆しもみえていたというのに
パウンドケーキを焼き
おせち料理も全部
一から手作りしてくれたというのに
国民年金の掛け金を納め終わった
その
翌日に
彼は独りで逝ってしまった・・・

 

 

8月。
ぼくら家族が
奈落と天国とを同時に味わった月。

その8月が
今年もやってきました。

 

ぼくらは淡々と
新盆の準備を進めながら
少し遅れてやってきたあらたな哀しみと
再び対面するのでした。

 



ツリー 胸のなかの夜の鳥

 

ほんとうの哀しみは

すこしおくれてやってくる

ほんとうの哀しみは

寂しさと見分けることができない

 

こみあげる泪をぐっとこらえるぐっとこら

えるぐっとこらえた後に

寂しさがやってくる

 

寂しさは心の喫水線を超えて涙腺へと流れ

こむ

だからぼくは

こらえたはずの泪を

いつまでも流しつづけることになる

 

息子よ

息子

君はむこうで

元気にやっていることだろう

けれどもぼくらはそんな君の姿を

動画よろしく視聴できない

てのひらで

確認することだってできやしない

 

 

ほら

またひとつ

おくれてやってきた哀しみが

ぼくの目を覗き込む

そいつはね

遠いむかしのかさぶただ

思い出という名のかさぶただ

 

哀しみは

あの手この手でぼくの胸郭をノックするす

ると寂しさがー

か細い声で呼応するのだ

夜の

鳥のように

夜の鳥

微睡(まどろ)みも せずに

 

死んだのは君 だけではなかった

ぼくはときどき
自分は本当に変わってしまったと
そう感じることがあります。

 

ぼくを
ぼくたらしめていた
いくつかの信念が
ものの見事にクラッシュしたのです。



あの日
息子が死んだ日
ぼくもいっしょに
死にました。



けれどもぼくには
家族がありますので
家族のために
もう一度だけ
目をあけることにしたのでした。

 

次のポエムは
そんな心象を書き留めた
走り書きです。

 



ツリー ペーパー

 

信念 かたわれ ぼくの破片

アイデンティティーとでもいうのかな

人格 うすっぺらな人格 ペーパー

ペーパー

 

風に舞い散る落ち葉

はらはらと ただはらはらと

所詮はそんなものでしょう 信念なんて

漬物石みたいなもの 

中庸 

それが何

 

背広着た優等生 あなたの信念

粉骨砕身 あなたの信念

滅私奉公 時代錯誤 アナクロニズム

ぼくイコール信念だなんて 文鎮の頭

 

自信過剰 自意識過剰 アルコール過剰

嗚呼

ぼくというひとつの現象を 

嗚呼

演じる演じる

それも信念 人格 アナクロニズム

 

とにかくだ

ぼくの信念はいつも 

自身に溢れていたと それを

言いたかったのだ

 

この世に措定できないものなど

何ひとつないというー

奢り

高ぶり

かたわれ 切符

いやな奴

風に舞い上がる切片 花吹雪 風前の灯

 

 

あの日

君が死んだ

 

 

ペーパー 紙切れ

死んだのは君

だけではなかった 雪片

雪片じゃなく 切片 破片 ぼくの破片

砕け散った硝子鉢

金魚鉢

春の光

 

死んだのは君ではなくて ぼく

いやぼくの人格 ぼくの信念

風に舞い散る落ち葉 

ただはらはらと はらはらと

風に舞い散る涙 

ただはらはらと はらはらと

 

信念 人格 アイデンティティー 

さよなら

ぼく

いや ぼくという信念 

砂上の楼閣 砂時計

 

 

芝居は終わった・・・

 

ドーランを落として

雪片に還ろう

 

金魚鉢

春の光

 

魚類から鳥類へ

変わったのは
ぼくだけではありませんでした。
ぼくら夫婦もまた
変わっていきました。

 

24歳の息子を失った夫婦。
しかも自死によって息子を失った夫婦。
そもそもその息子の死を
食い止めることができなかった夫婦。

 

ぼくらを措定するカテゴリーは
あとからあとから生まれてくるのでした。

 

ぼくらは最初は水の中の魚類に
そうして鳥類へと進化したのです。
それも片翼だけの鳥類へと。

 

それでもぼくらは生きていくのです。

 



ツリー 半分だけの鳥

 

翼のない鳥はもはや飛べぬ

翼のない鳥はもはや歩くしかない

翼のない鳥はもはや鳥とは呼べぬ

 

なんとしたことだろう

双翼を失ったぼくら夫婦の肩に

戻ったのは片翼だけだったとは

しかも

驚いたことに

戻らぬ翼に対し

ぼくらはなんら未練とてもなく

ただ恋恋と口ずさむは

失われた時代のフォークソングばかり

 

えへん

 

翼がなくったって

きれいな声で囀ることはできる

翼がなくったって

虫も啄むし巣作りもする

翼がなくったって

鳥のこころは失ってはおらぬはず

 

そもそも半分だけの鳥なんて

見たこともないよとあなたはいうだろう

半分だけの不完全な鳥を

果たして鳥類に分類しても

よいものだろうかと

 

片翼を失ったままのぼくらは

嘴をカチカチと鳴らして

残った翼で地面を叩いたりもしながら

懸命に異を唱え続けるだろう

 

半分だけの鳥同士

コミューンをつくったりもするだろう

半分だけの鳥は

半分だけの鳥にしかわからない

半分だけの鳥のための

半分だけのメソッドで

賢く鳴き交わしたりもするだろう

 

鳥の番

半分だけの鳥が

半分だけ笑って

半分だけ泣いて

半分だけパンを残して

半分だけ途方にくれている

 

半分だけの鳥は

涙も

半分だけ

欠けて

 

 

※あわせてこちらもお読みください。 
↓↓↓

息子を亡くしたひつじかいの慟哭をポエム集にまとめました。①】
📑ポエム&エッセイで紡ぐ息子へのオードひつじかいの『君のいない朝』

【哀しみと対峙するひつじかいの心の軌跡をお読みください。②】
📑ひつじかいのポエム&エッセイ『君のいない朝』をあなたへ

【もぬけの殻になってもエンピツを握る力だけは残っていました。③】
📑〈自死した息子に贈る〉ポエム&エッセイ『君のいない朝』から

本当の哀しみは遅れてやってくるのだということを知りました。④】
📑〈家族の死を深く見つめて〉ひつじかいの詩集『君のいない朝から』

【子どもに先立たれるという不条理を言葉に置き換えて。⑤】
📑〈子どもに先立たれるということ〉ポエム集『君のいない朝』から

【ポエムはある種の傘あるいはシェルターだったのかもしれません。⑥】
📑「書くことで心の平衡を保って」ポエム集『君のいない朝』から

「今この瞬間しかない」ということを息子から教えられました。⑦】
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花びらは散っても花は散らないという言葉をシェアします。⑧】
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【山霧にそして蝉しぐれのなかに息子は偏在している。⑨】
📑息子が幻視した怖れ(コビット19)は現代版ハルマゲドンか?

【パンドラの函もいつかは開けなければならないでしょう。⑩】

📑石地海岸はパンドラの函~君のいない夏に思いを馳せて~

 

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