オリジナル詩集『君のいない朝』から「みどりに想う」

こんにちは、もりのひつじかいです。

 

ここまで7回にわたり
シリーズでお伝えしてきました
ぼくのオリジナル集『君のいない朝』。

 

それぞれの投稿に
リンクを張っていますので
よろしかったら
お好きなところかお読みください。

 

『君のいない朝』(その1)

『君のいない朝』(その2)

『君のいない朝』(その3)

『君のいない朝』(その4)

『君のいない朝』(その5)

『君のいない朝』(その6)

『君のいない朝』(その7)

 

 

息子の自死から
早や2ヶ月が過ぎようとしています。
ぼくが紡ぎ出す日々の言葉も
時の移ろいとともに変化していきます。

 

蚕が糸を吐き出すように
吐き出した
そんな言葉の連なりを
あなたに
お届けしたいと思います。

 

今回お伝えする自作ポエムは
「みどりに想う」
「陰膳」
「雉がないている」
の3編です。
どうぞご鑑賞ください。

 

花びらは散っても花は散らない

地面ばかり見つめていた目を
ふと転じると
山野は緑でおおい尽くされていました。

知らぬ間に
新緑の季節がやってきたのです。
例年より10日早いペースで北上を続けた
桜前線。
その前線に遅れること
半月余りで咲き初めた
山桜の数々。

 

中でも一等遅れて咲いた1本の桜に
目が引き寄せられました。

 

花びらは散っても花は散らない

形は滅びても人は死なぬ

 

金子大榮というお坊さんが著した
『意訳歎異抄』の一節を
思い出しました。

 

息子という「形」は滅びてしまったが
息子の魂魄(意識)は死ぬことはない。

和尚の言葉を
ぼくはそんなふうに
解釈したのでした。

そうして
その山桜に息子の面影を重ね合わせ
祈るような気持ちで愛で続けました。

 

これはそんな心境で綴った
一遍です。

 

 

ツリー みどりに想う

 

みどりという名の季節がやってきた

 

顔をあげると

みどりが世界に氾濫していた

 

うすみどり

わかみどり

あさぎ

はいみどり

ふかみどり

 

もえぎ

くさいろ

なえいろ

やなぎいろ

 

みどりの呼び名は知らずとも

新緑の山

山笑う山

山山山のみどりはわかる

 

みどり

みどり

重なりに

目を

漂わせながら

どうしたことか

ぼくは

きゅうに

藍色について考えている

一張羅のコートとセーターと

スエードの靴について考えている

 

藍色は

息子が好きだった色

やまざくら

世界中にみどりは横溢し

自然のいとなみは夏へと向かって迸る

 

こんなにも美しい季節のなかで

慟哭しているひとはいるのか

 

こんなにも美しい季節のなかで

笑顔を取り繕っているひとはいるのか

 

こんなにも美しい季節のなかで

遠くを見つめているひとはいるのか

 

みどり

みどり

みどり

埋(うず)もれるようにして

咲き遅れた桜がいっぽん立っている

 

桜よ

山桜

 

どうか最後の一花(いっか)まで

矯めず臆せず堂堂と

自分らしく咲くがよい

 

花に息子を重ね合わせて

ぼくは黙って

目を閉じる

 

むこうにも時間というものがあるのかしら?

「形は滅びても人は死なぬ」
という言葉を裏付けるかのように
ぼくは
息子のリアルな夢を見るのでした。

夢の中でぼくは
辻褄の合う会話を
息子と交わしたりもするのです。

 

ところがどうしたことか
妻の夢に息子は
ただの一度も現れてはくれないのでした。

 

妻の心配はつのります。
息子の魂魄が生き続けているのならば
息子は何かを考えているはずだ
というのです。

しかし、そもそも考えるなんてことが
死んだ後でもできるものなのか?

それでも
百歩譲ってできると仮定するならば
その考えは
いったいどこへ向かうというのだろう?

 

妻の問いかけは
息子の魂魄が生き続けているという
確証を得るまで
再現もなく続きていきそうでした。

 

この詩は
そんな妻の一途な思いに応えるために
書き留めた
ぼくのささやかなビジョンであります。

 

 

ツリー 陰膳

 

むこうにも

時間というものがあるのかしら

と妻が問う

昼のつぎには夜が夜のつぎには朝が

やってくるのだろうかと

 

おそらく

と前置きしたうえでぼくは答える

むこうの世界というのは

亡くなった大勢のひとたちの思いで

できているのだ

そのひとたちが昼のつぎには夜が

夜のつぎには朝がやってくるのだと

想像しているのならば

想像したとおりの朝がやってくるだろう

 

ふうんと妻はいった

そしてそれきり黙りこんだ

息子は朝の光のなかにいるのか

それとも

夜の静寂(しじま)のなかで

いま眠りについたところなのか

と思いをめぐらせているにちがいない

 

きのうあいつの夢をみたよ

とぼくはいった

あいつは元気そうだった

藍色のセーターを着て

黒いパンツをはいていた

親しげに近づいてきたから

どうだい楽しくやっているかと

やさしく頭をこづいてやった

ついでにハグをしてやろうと

腕を広げたら

それはいいと逃げてっちゃった

 

そう

いつものセーターを着て

いつものパンツをはいていたのね

だったらそれをあの子に

持たせてやるのだったわ

と妻が応えた

持たせるもなにも

いつものセーターを着て

いつものパンツをはいていたのだから

大丈夫じゃないのかとぼくはいった

 

あの子はいまなにを考えているのかしら

そもそも考えるということが

できるのかしら

それができるとするならば

その考えは

いったいどこへむかうのかしら

妻の問いは際限もなくつづく

 

朝がやってきた

こちらの世界で

御飯

息子の仏前に炊きたての御飯を備えよう

ぼくらと同じ副食もそえて

彼が苦手だった

頭足類の料理は極力控えて

 

むこうにいっても

嗜好は変わらないのかしら

妻がぽつりという

 

さあどうだろうか

今度夢で会ったら聞いておくよ

 

そうしてちょうだい

 

ここにはいない息子を中にはさんで

夫婦の会話はどこまでもつづいていく

 

君のいない朝に聴こえてくるもの

目覚まし時計はセットしてあるのに
妻もぼくも
ベルが鳴る前に目覚めています。
目覚めてはいるのですが
さっさと起き出すこともなく
布団の中で聞き耳を立てています。

朝早くから
雉(きじ)が鳴いているのでした。

 

雉の鳴き声は
遠ざかったり近づいたりしながら
ずいぶん長いこと聴こえています。

その
もの悲しげな声は妻の想像力を刺激し
様々な想念が
呼び覚まされているようでした。

 

ぼくらの心に降り続いた土砂降りも
すっかりなりを潜めて
空もいくらかは明るくなりはじめた
そんな頃のことです。

 

雉の鳴き声を聴きながら
ぼくらはふたたび
〈君がいない朝〉の現実を
ひしひしと胸に感じるのでした。

 

 

ツリー 雉がないている

 

雉がないている

どこかとおくで

雉のなきごえはかなしい

 

雉がなくたびにつまがいう

あのこはいま

しあわせにしているのかしら


しあわせならばそれでよい

ふしあわせならばかわいそう

 

雉もなかずばうたれまいものを

とはよくぞいったもの

きじ

あのこえでなきつづけたならば

いつかかならずいのちをおとす

 

つまのはなしはひやくする

あれは雉ではなくてむすこなのだと

むすこがろとうにまよって

ないているのだと

 

ぼくはこたえる

ろとうにまよっているのならば

ゆめにでてくることはあるまい

ゆめにでてきたということは

じょうぶつしたにちがいないのだと

 

つまははんろんする

あのこはまだ

わたしのゆめにはでてこないと

 

雉がないている

どこかとおくで

 

ぼくもつまも

それぞれのおもいをむねにひめて

そのこえをきいている

らいねんもさらいねんもそのつぎも

きせつがめぐるたびに

ぼくらはそのこえをきくだろう

それぞれのおもいをむねに

そのこえをきくだろう

むすこのこえをきくだろう

 

雉がないている

どこかとおくで

 

こうやってぼくらはすこしずつ

すこうしずつ

しずかにおいてゆくのだ

 

 

自作ポエム集『君のいない朝』から
「みどりに想う」
「陰膳」
「雉がないている」
の3編をお伝えいたしました。

 

このシリーズは
まだもう少しだけ続きます。
次回もどうぞお読みください。

 

 

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