こんにちは、もりのひつじかいです。
今日は、ひつじかいが
絵本のストーリーを書き始める前に
取り組んでいた
オリジナル童話作品の中から
『狐婿』(きつねむこ)を
お届けしたいと思います。
この作品につきましては
以前こちらの記事でもお伝えしましたが
「新見南吉童話賞」のオマージュ部門に
応募し、見事に落選(涙!)した
お話しでございます。
あれから少し冷却期間を置きましたので
そのときのリベンジをしようと思いたち
何度も手を入れ
いざ投函!
というところで募集要項を確認しましたら
無情にも、「新美南吉童話賞」の締切日は
一日過ぎていました。
まるで狐に化かされたような気分です。
そういう経過をだっと作品ですが
そのままお蔵入りをさせるにしのびなく
せっかくですから
あなただけにでもお読みいただければと
公開に踏み切った次第です。
さいごまでお読みいただければ
うれしいです。
第27回「新美南吉童話賞」応募作品 もりのひつじかい『狐婿』
百姓の権左は
根っからやさしい男でしたので
わずかばかりの田畑をまもりながら
鳥や獣など
むやみな殺生をすることもなく
ひとり倹しく暮らしておりました。
ある夏のことです。
権左が山の畑に出ておりますと
前ぶれもなく、こんこんと
天気雨が降り始めました。
昔からこんな雨のことを
「狐の嫁入り」というが
なぜ狢(むじな)ではないのか。
などとあれこれ考えているうちに
雨脚は次第に強さを増し
ついには本降りとなってしまいました。
やれやれ、これではさすがの狐も
嫁入りどころではあるまい。
ありがたいことに、畑の脇に
栃の木が一本立っておりましたので
権左はその下にかけこむと
雨が上がるのを待つことにしました。
雲は真っ黒な頭もむくむくともたげ
またたく間に凄みを加え
あたりは深い闇におおわれました。
と、山裾の方角に
ちかちか瞬く怪しい光がありました。
あれは、まさかの狐火?
いったい、何事が始まるというのだ。
ついとその光に見入っておりますと
目の前に、いきなり提灯の火が
ぽっと浮かび上がったものですから
驚いた権左は、その場にすとんと
尻もちをついてしまいました。
蛇の目を差し
紋付き袴に身を包んだ男たちが
手に手に提灯を下げ、しゅくしゅくと
山道を登ってくるところでした。
その数およそ二十あまり。
権左のそばまでやってくると
行列はぴたりと足を止めました。
やがて権左に一等近い傘の下から
甲高い男の声が聞こえてきました。
「婿殿。迎えに参上いたしました。
花嫁御寮がお待ちかねに
コンざいます」
そういうとその声の主は
自分の傘に入るよう
大きくひとつ手招きをしました。
傘の内に入ってからのちのことは
ぼんやりとした
霧の中にでもいるような心持ちで
行列が立藩な門構の屋敷に到着したことや
着替えの後に、白無垢をまとった
若い女のかたわらにみちびかれたこと
三三九度の盃に続いて高砂の舞があり
最後は盛大な酒宴となったことなどを
権左はまるで他人事のように
遠くから眺めているのでした。
しかし、長い夜が明けてみると
これは一夜限りの夢などではなく
こんと名乗る美しい女が
片時もそばを離れず
お前さま、お前さまと甲斐甲斐しく
せわをやいてくるものですから
いつしか権左もその気になり
婿入り亭主の座に
ちゃっかりおさまってしまったのでした。
こんは口数が少なく
すすんで身の上を語ろうとは
しませんでしたが
なんでも子どもの時分に怪我をして
その怪我がもとで足がいくらか
不自由になったことなどを
切れ切れに話してくれました。
そこで権左も
こたびの不思議なめぐり合わせについて
「狐の嫁入り」とも呼ばれる
天気雨にあったくだりから始め
怪しい火影を見たことや
さらには興のおもむくままに
かつて山中で、罠にかかり
死にかけていた子狐と出会ったこと
その子狐を家に連れ帰り
手当をほどこしたことなどを
とうとうと語って聞かせました。
空が澄み
秋風が立ち始めたころのことです。
こんが切なそうに切り出しました。
「お前さま、とうとう米びつが
空になってしまいました。
すこうしばかり
仕込みに行って参りますので
しばらくのあいだ留守をたのみます。
ついては、火の元が心配ですから
くれぐれも莨(たばこ)だけは
のまれませぬように」
そう言い置くと
こんはそそくさと出かけて行きました。
この家の主におさまってからというもの
莨のことなどすっかり忘れていた
権左でしたが
あらためてそう告げられると
かえって気にかかり
にわかに莨が恋しくなってきました。
こんにはすまないと思いながらも
どこかに煙管が仕舞ってないものかと
屋敷中を掻き回した挙げ句
蔵のひとつに入りこんで
かつて自分が纏っていた野良着の中に
無造作にくるまれていた
黒い叺(かます)を
見つけ出したのでした。
権左は
慣れた手つきで煙管に火を入れると
煙をゆっくりと口の中でころがしてから
ふーっと一息に吐き出しました。
すると、いったいどうしたことか
突然、目の前の蔵がぱたんと倒れて
すーっと消えていくのが見えました。
気がつくと
権左はひとり煙管をくわえたまま
山の畑に突っ立っておりました。
やられた。
ものの見事に化かされた。
あんまり見事に化かされたものですから
腹がたつどころか
すっかり狐にほだされてしまった
我が身がおかしく
権左はついつい
笑い出さずにはいられませんでした。
こんな大掛かりな芝居を打つからには
あやつにも
よほどの深いわけがあるのだろう。
どのようないきさつがあるのか
知りたいものよ。
そんなことを考えながら
権左が
村中へと通じる道をたどって行くと
遠目に、稲を刈る女の姿が見えました。
どこぞの嫁ごかしらぬが
稲刈りにはまだ随分と早いぞと
よくよく目をこらすと
その女の挙措には
どこか見覚えがありました。
少し回り道をしながら
それとなく近づいてみると
それは紛れもない
こんそのひとでありました。
こんは手ぬぐいを姉さに被り
着物の裾をからげ
慣れない手つきで
せっせと鎌を使っています。
仕事に身が入りすぎたものか
太くて立派な尾が
つんとはみ出ておりましたが
当の本人は
全く気づいていないふうでした。
「おこん、そこで何をしておる」
と権左がなにくわぬ顔で声をかけました。
こんはぴくんと顔をあげて
怪訝そうに権左を見返しました。
「お前さまこそ
なぜこのようなところにおるのじゃ。
もしや、手伝えに来てくれたのかえ?」
「いいや、おこん。
おれはつい今しがた、目が覚めた。
狐の夢から醒めたのだ」
権左はそう言うと
ふふっと笑みを浮かべました。
こんの眸が
すーっと寂しそうに翳りました。
「さようでございますか・・。
それならば、いたしかたありませぬ・・。
これでお前さまともお別れじゃ。
随分と世話になりました。
どうぞ末永く、達者でいてくださいませ」
そう言うと
こんはひらりととんぼをうって
もとの狐の姿にかえりました。
そうして
しばらく権左を見つめておりましたが
ついと山をひと睨みすると
後ろ足をかばいながら
跳ねるように去って行きました。
「あっ」
と権左は声をあげました。
「おこん、お前はあのときの子狐か?
おこん、待ってくれ。悪かった。
おれは、お前のことを
嗤ったわけではないのだ」
遠ざかるこんに向かって
権左は必死に呼びかけました。
しかし
足の悪い狐は
二度とうしろを
振りむこうとはしませんでした。
おわり
『手袋を買いに』の母狐へのオマージュ?
第27回「新美南吉童話賞」応募作品
ひつじかいの『狐婿』
いかがでしたでしょうか?
ひつじかいはこの童話賞に
2回挑戦しましたが
2回、弾かれています。
新美南吉の『手袋を買いに』の
あの母狐を
こよなく愛するひつじかい。
『狐婿』は
『ごんぎつね』へのオマージュと
自分の中では位置づけていますが
もしかしたら
この母狐へのオマージュなのかも
しれません。
作中の「こん」がやがて成長し
母狐になったのかもしれません。
ところで
「新美南吉童話賞」の審査員には
ひつじかいも
一度だけお会いしたことがある
富安陽子さんが名前を連ねています。
残念ながら落選とはなりましたが
それでも
富安さんにお読みいただけたかも?
と思うだけで励みになります。
3度目の挑戦は近いかもしれません。
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